
まあぶっちゃけて言って,僕は「ゆらぎ荘」を1.5歩ぐらい引いて読んでいる人です。あまり考えないで読む。物語を楽しむ。そういう人です。
それはきっと,僕が「ゆらぎ荘」を「ラブコメ」として読んでいないからだと思うのですよね。少なくともラブストーリー性は一切考えないで楽しく読んでいる。逆にそういうものを考えないほうが面白いし,そこが魅力の漫画だと思っていたからです。
そんなことはさておき,今回の「ゆらぎ荘」は最高であった。ニヤニヤで頬が崩壊しそうである。
幽奈の気持ちを知った千紗希ちゃんは,このまま自分の思いを秘めていることの良心の呵責に耐えきれず告白するつもり...というところからの,乙女たちの告白合戦。いやあ,女子の恋バナって本当にいいもんですね。

雲雀「雲雀は...昨日コガラシくんと二人で会ったよ コガラシくんに告白するために」「雲雀...コガラシくんのこと ちゃんと好きだもん」
幽奈「...じっ実はわたし... こっ...コガラシさんのことが す... 好き...みたいです...!」
千紗希「...っ 気づいちゃった...の あ...あたしの...冬空くんへの気持ちに...! だからもう...二人のこと 応援できない......!」
いやあ。頬が緩むってーの。恋する気持ちを吐露する乙女の姿は,げに最高哉!
常にド直球ながらなかなかストライクが決まらない雲雀ちゃんと。幽霊というハンデを負いながらスローカーブをもう一球な幽奈さんと。清純派ヒロインとして登場しつつもいつの間にか恋のフォークボールを投げていた千紗希ちゃんと。
それぞれが性格が出ていて素晴らしいですね。これはいいものだ...。
こんな修羅場...普通に修羅場だと思いますが,修羅場を上手く収める幽奈さんの言葉がまたいいですね。

「ここのままじゃ ダメ...でしょうか...」
「嬉しいんです! お二人が...こうして打ち明けてくれて 幽霊のわたしなんかを...ちゃんと その... ライバルとして見てくれていることが...!」
「だからわたし...千紗希さんのことも 雲雀さんのことも好きです 大好きです...!」
収めるつもりで述べた言葉ではない。幽霊の自分をライバルとして認めてくれたことに対する嬉しさを,その純粋な気持ちを吐露しただけなんですけれど。それが真実の言葉であると伝わるだけに,雲雀も千紗希も思わずお互い認め合うそんな展開。いいじゃないですか。
とまあ,ラブコメとしてみていなかっただけに,この数週間の「冬空コガラシに対する恋心の容認」とその思いの告白合戦は意表を突かれたというか,ラブコメとして非常に楽しめるものがありました。この場面だけ切り取れば。
...うん。
ここからまた1.5歩下がって「ゆらぎ荘」を見てみるんですけれど,この作品が読者に支持されている...というか主人公の冬空コガラシがこの手の漫画にしてはとても「好感度の高い人物」になっているのは何故かということに思いが馳せてしまうのですよ。
この作品が読者に支持されている要因は多々あるのでしょうけれど,その一つにコガラシさんに対する好感度の高さはあると思うのです。
ここまで「ゆらぎ荘」はなんのかんの言いながら主人公のコガラシさんに対する恋心を「はっきりとは認めない」状態でお話を進めてきました。そしてそれでもこの作品は多大なる支持を受けてきました。なぜでしょう?
肌色多めのラッキースケベの存在はそれなりに大きいのだと思いますが,それでもこの作品が単なる「ハーレムもの」になっていなかった理由,それはヒロインたちもコガラシさんも互いに「恋心」を抱いていないという「設定」に大きく依存していたようなきがするんですよね。特にコガラシさんに対する印象の良さは。
ここまでのお話では,コガラシさんはラッキースケベの舞台装置であり,コガラシさんが居るからそこにヒロインのエロスが現れるという構造が多かった。コガラシさんの好印象度はヒロインたちに「恋」をしておらず,ヒロインの恥ずかしい姿を引き出すきっかけにとどまっていたからです。

舞台装置としてのコガラシさん(第48話より)
コガラシさんは主人公の一人なんでしょうけれど,読者にそれを意識させない。物語のラッキースケベ展開の小道具としてしか機能していなかったからこそ,読者はコガラシさんに対して「嫌悪感」とか抱きようがないんですよ。一方で人物としてのコガラシさんは良い人としてえがかれているので「好印象」は残る。それがコガラシさんのキャラとしての「強み」です。
これが「ラブコメ」になってしまうと話が大きく変わります。もしコガラシさんがヒロインたちに何らかの「意識」をもってしまったり,誰かに対して「特別な感情」を抱いてしまった途端,お話づくりが難しくなる。
複数のヒロインと近づきつつ離れていくという,ラブコメの定型パターンに落ちていった瞬間,それぞれのヒロインを応援するファンによって真逆の評価をコガラシさんは得ることになってしまう。また,相思相愛のベクトルができてしまった時,その恋を成就させないために「無理なキャンセル」を発生させなければならなくなる。
ラブコメというのはそういう「危険性」をはらむものであり,それはこれまで「ゆらぎ荘」を支持してきたファンの要求(需要といってもいい)と一致しない可能性がある。その意味で,今回のラブコメ展開は「ひやり」とさせられるものがあります。
ただ救いは,今回の「恋心の認識」があくまでヒロイン側にとどまっていることです。ヒロインが恋心を抱くのは実はあまり問題ない。片恋である限り,コガラシさんの行動に制約はないからです。コガラシさんが特定のヒロインを裏切るような印象を与えたり,優柔不断な印象をあたえることもない。
言い換えれば,「ゆらぎ荘」がこれまでどおりの展開から一歩進化して「ヒロインたちからの恋心」というラブがコメる展開を与えつつ,コガラシさんは相も変わらず朴念仁で有り続ける限り,物語は無理なく続けることができる。それは物語としては一歩成長であり,かつこれまでの「ゆらぎ荘」の良い部分を失わなくて済むというより良い方向への進化だと思います。
そんなことを今週の「ゆらぎ荘」を頬を緩めながら読みつつ考えたのでした。まる。
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とはいえ,恋の戦線はまだまだ拡散模様。狭霧さんのモノローグからも,そんな匂いがプンプンした。

狭霧参戦の予感
というわけで,これからも肌色多めのニヤニヤラブをお願いします。
*画像は『ゆらぎ荘の幽奈さん』第49話,第48話 から引用しました。