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『恋と嘘』第3巻 + 第63~71話 恋の葛藤編 感想

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さてと。大変遅くなりましたが,『恋と嘘』第3巻から最新話・第71話までの感想です。
(最新話 第119話 2017/02/05更新分の感想はこちら

ふむ。
第3巻の大半は厚生労働省講習編なので,その部分は前回感想で取り上げなかった部分を中心に感想を述べていきたいと思うのですが,むしろ今回着目したいのは根島と仁坂,莉々奈と高崎さんそれぞれの恋の葛藤ぶりですよね。二組の男女の心の動きが複雑に絡みまくっていて,なんとも言えない状況に陥っております。

(関連感想)
・『恋と嘘』第1話~19話 感想
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まずは第3巻の「書き下ろし」の内容から。連載から大きく追記された点が3つありました。

1.厚労省の特別講習会前の『莉々奈の夢』
2.厚労省に一夜における『ネジの行動』
3.莉々奈と高崎さんのパンケーキデートの時の『高崎さんの心情』

これね。
ここまで加筆されたら,連載時とはまるっきり違うお話だよね。とても深い改変だったのではないかと思います。

...
......

まず『1.莉々奈の夢』。

ここまで莉々奈はネジに恋しかかっていることが描写されていたのですけれど,そうした心情が夢に現れるというお話。言うなれば,深層心理に隠れていたものが,『夢』を通じて莉々奈自身にネジに対する恋心の存在を意識させるきっかけになったのではないかと思います。


莉々奈の見た夢は,ネジとキスをする夢。


わ,私ったらなんて夢を...


そんな夢を見た自分に対し,いつも通り固真面目に「キスをする夢」の分析なんてしてしまうわけですけれど,そんな分析を通じても本当のことなんてわかりっこないわけです。

政府通知の相手の別の『恋』を応援する。奇しくも仁坂が指摘したように,「仮にネジと高崎さんが上手くいったとして,その時に政府通知の相手であった自分の居場所はどこにもいなくなってしまう」,そんな状況を考えることもなく単純に応援している。

でも実際の莉々奈は徐々にネジに惹かれつつあるわけです。それはこの「キスの夢」の副題にあるとおり「自分への嘘」。そんな惹かれる心が見せた夢に対し,そんなことは考えていないと言下に否定しつつも顔を合わせれば正面から見れないくらいのときめきを感じる。

そんな莉々奈の姿に,やがて来るカタストロフィーの予感がぷんぷんします。ネジと高崎さんが戻れないところまで言った時,自分の本当の気持ちとの葛藤に苦しむ姿が透けて見えます。

...
......

そんな莉々奈のネジに対する気持ちが表れたのが『2.厚労省の一夜』だと思います。

連載当時には,単にネジがセックスのふりをするだけだったのですけれど,今回の第3巻では大きく追記されています。ベットに横たわった莉々奈に対し,ネジが取った行動は莉々奈に対するキス。



演技のキス


そんな根島の行動に,莉々奈は強く抵抗することもなくキスを受け入れます。それは莉々奈は既にネジに対する恋心が心の奥底に存在していたから。かつて夢で見たようなネジとのキスが現実のものとなった時に,それを受け入れることに戸惑いを見せつつも拒絶はしなかった。それは莉々奈が根島に既に「恋」している証左でしょう。

それを裏付けるのが,その後のネジとの会話です。

とっさに我に返った根島は莉々奈から体を離します。莉々奈の心に想いが至ったのが直接のきっかけですが,決して莉々奈自身から強い拒絶があって離れたわけではありません。莉々奈自身はどうしてこのような行為に至ったのかという当然の疑問があり,それに対して根島は馬鹿正直に監視を恐れてという建前を語ってしまうわけです。


莉々奈が傷ついたのは,根島が自分に対する恋心が芽生えたから「ではない」と思ったからですね。と同時にネジ自身,本当にそれは「建前上そうだったからキスをしたのでは『ない』」ことに気づいていない。



本気のキス


演技のためのキスだったはずなのに,感情に任せて熱いキスをする。そこには莉々奈に対する「何らかの想い」が確かにあったのであり,決して欲情しての行動ではない。

だからこそ莉々奈に理由を問いかけられた時,「そんなことをするとは思わなかった,いや少しは思ったけれど」という混乱した答えが出てきたわけです。

自分は高崎さんが好きという認識があり,莉々奈は政府通知の相手であって大切にはしたいけれど「恋の相手ではない」。そんな思いと,実際に莉々奈に惹かれる部分が重なりあって,そんな混乱した答えが出てきたのでしょうから。

...
......

莉々奈と根島,二人が「政府通知の相手」であることは(「恋と嘘」の世界観において)科学的に理にかなったカップルなわけです。ですから,二人がともに過ごせば過ごすほど,お互いに対する親愛の情は深まっていく。

そんなことを客観的に感じ取っているのが,他ならぬ高崎さんなのでしょう。第3巻の書き下ろしで追記された『3.高崎さんの心情』が全てを物語っている。

根島とのスレ違いを「寂しい」という莉々奈の心は,他ならぬ高崎さんの目にも明らかなように「恋」の状態にあるわけです。高崎さんが諦めれば。そっと二人の背中を押してあげれば。きっと二人はスムーズに恋人同士になれるのでしょう。でも,そうしない。



でも言わない


その高崎さんのエゴを果たして責めることができるかといえば,そんなことはできない。

政府通知の相手として充てがわれた相手と自分が実際に惚れた相手。どちらが正しいのかどうかは政府の役人の矢島だってわからない。結局,「人を好きになる」ということは個人的な感情であり,感情とはそもそも科学や理性ではコントロールできるものではないもの。


自分の気持ちを押し殺して,密かに閉じることもできる。いま,高崎さんがやろうとしていることは率先して二人をくっつけようとはしないけれども,自分自身から根島に積極的に近づくことはせず,自分の恋を「押し殺そうとしている」。積極的に後押しはしない。でも自分の恋を実らせようとしない。そんな苦渋の決断を下している高崎さんを誰が責めることができるでしょうか。


しかし,そうした行動が後に「後悔」につながることはわかりきっているわけです。厚労省の役人である矢島がかつて捨ててしまった自分の「本当の恋」を後悔したように。


自分の気持ち

...
......

こうしてみると,登場人物全てが自分の本当の気持ちを誤魔化している。根島を除いて。

根島に対する恋心を認めない『莉々奈の嘘』。
根島に対する恋心を押し殺す『高崎さんの嘘』。
根島に対する感情を秘め続ける『仁坂の嘘』。

それに対して,根島は高崎さんに対する恋心を誤魔化そうとしない。と同時に,莉々奈に対する気持ちも誤魔化そうとしない。


根島の高崎さんに対する想いは本物で,それは高崎さんと疎遠になろうとも継続して思い続ける想いである。それは根島の(罪づくりな)仁坂に対するセリフからも分かります。


と同時に,莉々奈とも上手くやっていきたいとう純粋な気持ちがあって,莉々奈からの手紙に小躍りして「男でもできるような気がした」というのはやはりある意味「恋」に近い感情が存在するということだと思うのです。


それは恋なのか


もちろん根島自身は「恋」とは思っていないでしょう。莉々奈は大切な政府通知の相手であり,おそらくは「大切な友人」という認識なんでしょうけれど,その実「嫌われたくない相手」だからこそ莉々奈からの手紙が嬉しかったのであり,「好きになる素地」があるからこその厚労省での『キス』だったのでしょうから。

...
......

そう考えると,このこんがらがった4者の恋模様を打破できるのは唯一根島だけということがなんとなく見えてきます。

ちょっとだけ妄想すると,莉々奈の気持ちはますます本物になっていくのでしょう。そんな莉々奈の姿を見て,高崎さんは頑なに根島を拒絶していくのでしょう。そして莉々奈に惹かれつつも,最後はきっと高崎さんに走ってしまうであろう根島の決断を,高崎さんが受け入れるのか否か。それがこの『恋と嘘』の最後の結末になるのではないか。そんな予感がするのです。


...あれ,仁坂はどうなるの?(笑)









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コミックス第3巻の巻末に収録された,週刊少年マガジンに掲載された特別編。これ,仁坂の両親の物語だったわけですが,今回はそんな仁坂と根島の混戦模様が際立っていました。



政府通知がもたらした「本物」の恋


仁坂はどうやら根島が「好き」らしいというのは当初から描かれていたわけですけれど,根島の「仁坂は高崎さんが好き」というちょっとした誤解から生じた様々な発言が仁坂の心を惑わせています。


第3巻冒頭セリフといい,ロミオとジュリエットの劇にあわせたこの台詞といい,


僕らに似ているじゃねーよ(ハリセンボン風に)

仁坂は根島も自分のことを「好いているのではないか」と勘違いさせるような罪づくりな発言をしてしまっているわけですよね。こうなると仁坂の行き着く先には破滅しか無い。

政府通知が結びつけた二人の子どもが行き着く先が,政府通知がどうしようもない同性に対する恋にある。なんとも言えない悲壮感が仁坂に漂います。ましてちょっとした「勘違い」をさせられた上での行き着く先ですから,仁坂さんの先々が心配です。


無邪気な母と悩める息子,それを見つめる父は何を思う...

結局のところ,作者のムサヲ先生は『恋と嘘』をハッピーエンドで終わらせるつもりなのか,悲劇で終わらせるつもりなのか,そこのところが問題なんですよね。

今のところ7,8割方「悲劇」で終わるんじゃないかという予感がするのですけれど。仁坂,高崎さん,莉々奈,ネジ,4人の気持ちを無理やりぴったり当てはめるよりも,すれ違ったままの「本物の恋」というものを「悲劇」を通じて描こうとしていくような,そんな予感がしてなりません。




*画像は『恋と嘘』第3巻 及び 『恋と嘘』第63話~第71話 から引用しました。

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