さてと。『週刊少年ジャンプ2017年第34号』 『ぼくたちは勉強ができない』問27. 果敢なる天才は[x]の流説に抗う の感想です。
(参考)WJ34号 他の感想記事
『ワンピース』 第873話 感想 はこちら。
『シューダン!』第7話 感想 は こちら(後日更新)。
全国1000万人のラブコメハンターの諸兄にとってラブコメとは一体どんなものなのか。そんなことをこの3年間あまり考えて...は来なかったというか,さっき思いついたばかりですが,いわゆる「ラブコメ読み」な方々のスタンスは大きく二つに分かれるようです。
一つは,「主人公に自分を重ねる型」。
主人公に自分を重ねるので,主人公の選択が自分の行動・判断基準とずれると少しストレスがたまるかもしれません。
また,自分の「推しヒロイン」が別の男といい感じになったり付き合ったりしてしまった場合,それが漫画内の主人公の選択の結果だったとしても「寝取られ感」を受けてしまったり。(例:一条楽と愉快なヒロインたち)
あるいは,主人公自身が他者から言葉や暴力で傷つけられたり,自分にとって不愉快な言説・価値観を主人公が述べるとそのギャップで主人公自身を否定したくなったり。(例:玉梨くんと愉快なヒロインたち)
まあ反応は人それぞれなんでしょうけれど,基本的に「ラブコメの主人公=自分自身」と自己投影するからこそ生じる感情なのかな,と思います。
もう一つは,「主人公と愉快なヒロインたちを生暖かい目で見守る型」。
主人公やヒロインたちの繰り広げる物語を客観的に眺めてニヤリングしてしまう。どこか目線が「子どもたちを見守るオッサン」になってしまう。他人の色恋沙汰に直接介入せず,話だけ聞いて面白がる。
まあ反応は人それぞれなんでしょうけれど,基本的に「ラブコメで起こっていることは俺とは関係ないが,面白がってやる」という感情でラブコメを読む感じでしょうか。
ま,僕は後者なんですけれどね。
端的に言って,今回の古橋さんのお話はニヤリングできるお話であった。

ニヤリングな二人
「ぼく勉」フリークの諸兄から見ると,唯我君を巡る恋のレースの本命・緒方 vs 対抗・うるかの二強で,超大穴(オッズ3000倍くらい?)で桐須先生といったところなんでしょうか。
颯爽と二大ヒロインとして登場したはずの古橋文乃さんはもはや恋のレースは脱落...てか,最初からレースに参加していない状況になっています。

調整者となった古橋さん
なまじ他人の感情を読み取るに長けているだけに,友達の唯我くんへの恋心を読み取ってしまった古橋さん。早々に調整役に舞い降りることによって,リズ・うるか回にサブ的に絡むお話作りをすることで,古橋回の少なさを補うパターンが続いたところで今回のお話ですよ。
まあ,ラブコメのヒロインなんてお話を回してナンボのものですからね。ラブコメは結論は一つです。過程はそれを肉付けするためのものに過ぎない。3人,4人と狂言回しを増やしていって,個々のエピソードを回す。そして最後に一人とくっつければ一丁上がりという商売です。
そんな貴重なヒロインを早々にラブコメ戦線から引き摺り下ろすなんて,とんでもない!
友達に気遣って一歩引いたつもりの古橋さんですが,もとより調整役にとどめるのではなく「友達の好きな人なのに...あれ,この感情は...?」的な展開が来るのは分かっているわけですけれど,案外そっちに舵を切るのが早かったすね。
OK。
振り返ってみよう。
「女心練習問題」を解くために教師と教え子の立場がひっくり返った古橋さんと唯我くん。校舎のいつもの場所で二人密談することがすっかり多くなりました。

「近いよ 古橋...」
にこめられた唯我君のセリフは,古橋さんを女の子扱いしている証左であり,同時に唯我くんを男として意識していないという古橋さんの心の証明でもある。まあ近づいたのは,桐須先生の家に行ったという「問題行動」に脊髄反射したからですが。
で,壁ドンならぬ樹ドン。
普通は男女逆だけれどな!

樹ドン
うむ。
古橋さんのいいところは「天然」であるところだと思うんですよ。
端から見れば校舎の人気の無いところでいつも二人であっていれば「逢瀬」に見えるし,樹ドンをすればいい雰囲気の「恋人」に見える。
もちろんこの距離感は古橋さんが「恋愛感情」を唯我くんに持っていないからできることです。でもこんな距離感で迫られれば男としては「女子」を意識してしまうし,端から見れば「いい感じのカップル」に見えてしまうがな。

端から見ればこうなる
で,誤解が誤解を呼ぶ展開で周囲があれこれ騒ぎ立てるところは普通にラブがコメっていて描写として面白かったです。お父さんのような目線で「子どもの恋愛」を眺めてみれば,ほら,頬が緩むニヤリング展開。
ドキドキ。

ドキドキ
恋愛感情を抱いていないはずの古橋さんが,唯我君との距離の近さにドキドキする。でもそれは表面的なドキドキです。男の子が近くにいることに対する「異性」との距離感のドキドキであって恋愛感情ではない。
それがちょっと変わっていくのは,他ならぬ二人の関係を作り上げている「状況」,自分は理系の勉強が苦手なのにやりたいからその道に進む,そのために唯我くんは勉強のサポートをする,といった本質に関わる問題に触れたからですよね。
桐須先生と唯我くんが逢瀬を重ね(おい),その結果,桐須先生と話し合いすることを唯我が薦める。でも唯我の心は「苦手分野で勝負するのではなく,得意分野を伸ばせ」ということではないことを,その勉強で,その教え方で古橋さんに伝わったからだよね。

変わらない姿勢
二人の関係は最初から変わっていなくて,自分のやりたいことを実現するために苦手な勉強を教えてくれる協力者・先生とその教え子。その関係であることを再度確認したからこそ,ドキドキは掻き消えたのであった。
とはいえ,噂は噂で気になるわけですけれど。

動揺する男
ほかならぬ自分が恋愛戦線に加わるどころか,「付き合っている」なんて噂が流れた暁には,緒方さん・武元さんとの100年の友情は一体どうなるのか。そんなことになっているとは全く気付かなかった唯我くんも困惑気味です。
そんな気の抜けた瞬間,ほんの気まぐれのいたずら心。

よし!(何が)
いつもと座る位置を切り替えて。思わず出た冗談に赤面する唯我成幸とそれを見てびっくりした古橋文乃の赤面にニヤリングする。ここでニヤリングしないでいつするんですか。今でしょ!(←死語)
言葉には「力」がある。
言葉にでたことが「現実」に影響を及ぼすことをぼくらは知っている。
絶対に好きになるはずなんて無い。友達が好きな人のことを。という気持ちと。
「本当につき合っちゃう?」という言葉を無防備に聞いてしまった心と。

困惑する言葉と心の行方
物語の結論がどうなっているのか,僕は何も予想していませんけれど,「言葉」に出してしまったものは,二人の間に大きく影響を与えるだろう。そんな予感がするのでした。
...
......
.........
さて。さてさて。
古橋さんがしばらくの間一歩引いた立位置で物語に参画していたのは,単純に他のヒロインよりも人気で後塵を拝している。そんなところが原因ではないかと推測していました。

サポートを演じるダブルヒロイン(新ジャンル)
そのため,「恋のサポートキャラ」に身を落とし,人気キャラの当番回に花を添えることで古橋さんの延命を図ってきた部分はあったと思うのですが,そもそも何で古橋さんは緒方さんや武元さんよりも人気が出なかったんでしょうね。
いわゆる「黒髪ロングキャラ」というのはラブコメマンガの定番なので,放っておいても一定のファンがつくものです。実際,ファンの方も沢山いらっしゃるでしょう。
ただ,古橋さんは第1話で「毒舌キャラ」という味付けをされましたよね。
主人公に対して無意識とはいえ「毒舌」というのは,最初に述べた「主人公を自分に重ねるタイプの読者」にとってはあまり楽しくない出来事です。それが原因で緒方さんや武元さんよりも若干人気が落ちている部分があるのかもしれません(あくまで個人の推測です)。
ただまあ,物語的にダブルヒロインで始めたのに,一方を脇役に追いやるというのは短期的には良くても長期的には難しい。最近,毒舌キャラを封印しているのもをのせいでしょう。さて,そうなると取れる措置は二つです。
・「友達の好きな人を好きになってしまう展開」にする
・「主人公が古橋さんを意識するようになってしまう展開」にする

明日はどっちだ
僕は後者かな...と思っていたのですけれど,今回の最後的には前者っぽいですね。そうなると,古橋さんは他ヒロインのファンの方からあまり快く思われないかもしれませんが...。それを避けるためには,唯我が古橋さんを気にするようになるしかないように思っていたので。
ただ同時に難しいのは,『ぼく勉』がラブコメとして一定の評価を得られているのは,主人公が読者共感を得られているからだと思うんですよね。
主人公に読者共感をさせるのはそう難しいことではありません。
・主人公を性格のいいやつにする
・主人公自身はヒロインたちに恋愛感情を持たせない(特定の誰かを好きにさせない)
これだけで圧倒的に主人公の印象はよくなります。良くも悪くも人畜無害な主人公がモテモテな状況に陥るのは,自己投影型の読者にとって気持ちがいいことですし,客観視型の読者にとってもニヤリングできるので特に異存は無いからです。
それを一番具現化しているのが『ゆらぎ荘』のコガラシさんであり,『ぼく勉』の唯我くんだったわけですけれどね。
唯我君の最後の反応から見て,古橋さんを意識する線は残っていなくも無いと思いますが,主人公とヒロインの一人,どちらを犠牲にするのかといえば,アンケ的には答えは一つです。
ただまあ,いきなり結論を出す必要は全くありませんし,そこに至るまでの少年少女の葛藤をニヤリングしながら眺めるのもラブコメハンターとしての楽しみでしょうから,じっくりと堪能したいと思っています。まる。
ぼくたちは勉強ができない 第1巻はこちら。 KINDLE版はこちら。
ちなみに僕自身は『ぼく勉』には推しヒロインはいません。もうそういうの辞めたんです(笑)。今回,古橋さんのお話をたまたま取り上げましたけれど,結びつくのが誰あろうと結論は追うつもりが無いというか。
なんというか,僕は亡くなった唯我君のお父さん視点で子どもたちのドタバタを生暖かく見守りたい(ちょ)
で,今回出てきた鹿島さん。
結果的に彼らの恋を引っ掻き回す要素にはなりそうですよね。なんか変な誤解もしているし。

頭沸いてる系女子(?)
一応,古橋さんと唯我君の二人だけの出来事となっているわけですけれど,勝手に誤解している連中が好き勝手に話して言う内容を他の二人が聞いてしまうとか。あるいは古橋さんの告白シーン(笑)の後ろで実は武元さんと緒方さんが聞いていたとか。
いかにもありそうですよね。ラブがコメるのは徹底してこんがらがったほうが客観的に面白いので,もっとぐちゃぐちゃになってもいいんじゃないか。なんて思ったり。再度まる。
*画像は『週刊少年ジャンプ』2017年第34号「ぼくたちは勉強ができない」問27. 果敢なる天才は[x]の流説に抗う より引用しました。