
さてと。『週刊少年ジャンプ2017年第32号』 『シューダン!』第5話 「【悲報】ナナセさんイラつく」の感想です。
先週,鴨志田くんの壮絶な煽りを受けてピキピキ状態となったナナセさん。さあて,この後試合は...!? というところで引きだったわけですが,週が開けてみたら試合は終わっていた。て言うか,ナナセさんは保健室で横になっていた。

怒り七瀬
にゃるへそ。
今回の西美薗FCの鴨志田君という外来種による刺激は,『シューダン!』という物語の中にある大きな二つの要素と絡まっている。一つはナナセさんが女子ゆえに抱える男女の性差による身体能力差の問題。もう一つは浜西FCのメンバーのサッカーに対する姿勢の問題です。
この二つの問題は『シューダン!』の世界においていろんな局面で今後課題となってくると思われることです。ゆえに,小学校の球技大会レベルの枠で解決させてしまうようなことではなかったというわけですね。
結果的にナナセさんは鴨志田に力負けし,チーム6-2もまた鴨志田・渥美のチーム6-3敗北しました。
しかしこれは来るべき浜西FCと西美薗FCとの対決にて解決されるための「きっかけ」に過ぎない。
女子が少年団サッカーチームに参加するということの意味。そしてこれまで「勝つ」ということに目的意識を保ってこなかったこと,ヤマトのいうところの「闘志」が圧倒的に足らないといってきたことがどう変化していくのか。この二つの事象に対する外部からの刺激,それが今回の学校内における鴨志田との対決だったというわけです。

通らないパス
まあぶっちゃけ,ナナセさんのパスはことごとく鴨志田にカットされてしまいますし,身体能力で劣るナナセさんは鴨志田のような軽量級にも力負けしてしまいます。その上あんな風に罵倒されまくった上にチームについても舐めた態度を取られる。そりゃあナナセさんもイライラが募るってもんですよね。
とはいえ,鴨志田くんは大きな誤解をしているところがあります。今回の対決はナナセさんと鴨志田・渥美が参加している学校内のチームにおける対決に過ぎなかったということです。普段同じFCでプレーしている鴨志田・渥美コンビが上手く機能するのは当たり前です。対してナナセさんが参加していたチームメイトは浜西FCのメンバーではありません。
ナナセさんは,クラスの男子に対してソウシやロクに行うようにパスをすることは「チーム構成上」不可能だったわけです。パスはつながってこそのパスであり,得点に結びつくわけですから,鴨志田を切れるようなボールを送ってもパスとして繋がらなければ意味がありません。ナナセさんは女子として鴨志田に劣っているからパスカットされたのではない。したくてもできなかった,ただそれだけなのです。

極めて鴨志田
鴨志田がそれに気づかずに「女子で力もテクも無い」という認識でナナセさんと再び相対するならば,きっついお灸を据えられそうですよね。今度は鴨志田以上の速さを持つソウシが相手になるわけですから,球技大会と異なる次元のパスワークが観られるに違いない。そいつはこれからの試合でのお楽しみというところでしょうか。
もう一つ,今回の鴨志田・渥美による外部ショックによる刺激を受けたのは他ならぬソウシとヤスではないでしょうか。
昨年までの浜西FCはチームとしての機能が今ひとつでした。ロクと対等に動けるだけのゲームメーカーの不在。そして勝利に対する執着心,ヤマトのいうところの「闘志」の不足ですね。ポテンシャルは高いのに勝てない場合,個々の選手の能力よりもメンタルが左右する。

浜西FCに足らないもの
第1話にもソウシが言っていたように,浜西FCのメンツは「何となくみんなやっているからサッカーやっている」という空気のチームでした。ロクにせよソウシにせよ,個々の能力は悪くないのにチームとして機能しないことに加え,勝利に対するモチベーションも低かったのであればそりゃ強くなるはずもありません。
それがナナセさんが来てくれたことでチームとしての機能が高まり,かつチームみんなが「自分たちは強い」と認識するようになった。天龍SSSとの試合に勝利したことが大きな経験となっているわけですが,それでもまだ足らないものがあった。
それが「闘志」であり,「勝利に対する執着心」です。鴨志田にはそれがあり,浜西FCにはヤマトやロク,ナナセさんを除くとまだまだそれが足らなかった。
それが証拠に,ソウシもヤスも鴨志田の態度には批判的ではあっても試合直後はナナセさん同様に怒ることができなかった。

勝利に対する執着心と努力の必要性
あれだけ自分たちのチームを馬鹿にされても,です。次の試合の相手が西美薗FCであることを知らなかった(これまで意識したことがなかった)ことからも,勝つということに対して「全力を尽くす」という姿勢ではありません。相手チームを倒すための研究一つしなかったということですからね。
それが見えてくるからこそ,ナナセさんはイライラしたのでしょう。直接的には鴨志田に対する怒りですが,と同時に勝利に対する執着心を見せないソウシやヤスに対しても無意識にイライラしていたのは明白だからです。

ソウシの気づき
そんなナナセさんの怒りをうけて,ソウシ自身も己の姿勢に気づく。鴨志田とのおトイレトークを通じて表れてきたもの,それは浜西FCのチームの一員として西美薗FCに必勝ってやるという「勝利に対する執着」ですよね。もちろん,チームメイトの七瀬晶さんに対する「気遣い」というか,「信頼」を表す意味もありますけれど。

やだ,格好いい...
最終コマ,浜西FCと西美薗FCの試合直前の表情を観る限り,浜西FCにも勝利に対する執着心が出てきたようです。

闘志の宿る目
彼らの目からは「闘志」を感じさせます。ここまでのところ,外来種たる鴨志田少年は浜西FCに良い刺激となっているようです。その結果はどうなるのか,七瀬晶さんのリベンジは達成できるのか。熱い試合が期待できそうです。まる。
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以下,余談です。
『ソウシとヤス(と渥美大地)』
さて。七瀬さんからのソウシとヤスに対する示唆は,そのまんま試合におけるプレーとして期待できそうですね。

ソウシの可能性
鴨志田のプレーの凄いところは機動力をもちいたパスカットです。機動力だけで言えば,ソウシも鴨志田以上なわけですから,試合の中のどこかでそういうシーンが入りそうですよね。鴨志田のパスを読んでカットプレーからカウンターとか,爽快感があるじゃないですか。
そしてヤスもまた,長身という意味では渥美に引けを取りません。なるほど,体格がいいことは小学生レベルでは大きな差としてプレーに影響するかもしれません。でも小学生ですからね。身長はあっても身体のつくりは大人のそれとは違います。身長差があまりなければ十分勝負になりますよね。

ヤスの可能性
だってヤスはキーパー,「手」が使えるわけですから。手の使えないフィールド選手と手の使えるキーパーではボール支配に大きな立場の違いがあります。そんなシーンが次の試合でみられるのではないかと期待したいです。

渥美くんの限界は?
...まあそういう意味では渥美くんは今後苦労するかもしれませんね。身体差がなくなった時,どのくらい彼が体格に頼らないプレーができるのか。そのあたりも相互に刺激材料となれば,ライバルっぽくていいかなと思ったり。
『ロクについて』
さりげなく鴨志田からロクに対する言及がありましたね。トレセンにも呼ばれていないので大したことねーとか。

ロクに対する評価と実際
トレセンって,見込みのある選手を選抜してトレーニングさせるような制度ですかね。今後出てきそうですが。
ロクに関しては謎がまだ多いのですが,そもそもこれまでの浜西FCが緩いチームだったのでロクのポテンシャルを引き出せてこなかったのではないかというのが一つ。それから,ロクの家庭事情的にサッカーに大きな時間と労力を割くことが許されてこなかったのではないかということが一つ。
サッカー選手としてのロクの才能は高いことが示唆されていますので,今後そうしたことが分かるプレーやエピソードが描かれそうな観があります。そいつも楽しみの一つです。
横田先生の前作,「背すじをピン!と」第10巻はこちら。
余禄。
今回のサブタイトルといい,鴨志田による台詞回しといい,多分にネットにおける反応を意識した要素を取り入れていらっしゃるような感じがあります。

【悲報】鴨志田さん,この年で廃人の疑い
まあスタッフさんの作品PRの様子を拝見していると,かなり丁寧にエゴサーチされているようですし,どうしたら作品を盛り上げていけるのか色々考えていらっしゃるようですね。
さて,一方で『シューダン!』に対する論評として,「作品が少年というよりも,かつて少年団に参加したりしてきた大人たちを対象に描いているような気がする」というものを見かけたことがあります。これは多分半分は正しい。
少年時代を振り返って懐かしんだり,そういうのあるよね?という懐古的な共感に訴える表現になっている部分もあるからです。もちろん,それだけではありませんが。

「オタサーの姫」発言
とはいえ流石に鴨志田の「オタサーの姫」発言には笑ってしまいました。こういうところ,メタ的ですよね。小学6年生の鴨志田がどんなにネット中毒だったとしてもそれは知識の範疇にはないでしょうから。加えて,懐かしい視点で『シューダン!』を読んでいる読者が七瀬さんをどう捉えるかというウィットの利いたジョークでもある。
大人視点の発言を登場人物の子どもにさせるあたり,僕は面白いと思うのですが,はてさてどう評価されますか。少し気になります。まる。
*画像は『週刊少年ジャンプ』2017年第32号「シューダン!」第5話 より引用しました。