さて。
前回,時系列がごちゃごちゃして混乱した読者もいたようですが,そんな読者のパニックを予想してかきちんと「最近のあらすじ」(時系列順)をつけてくれる赤坂先生の配慮が暖かいのである。

あらすじ
先週のお話の感想が今週のお話の原稿に間に合うはずは無いから,完全に先読みキャッシュでこのコマを入れたということになりますね。赤坂先生マジ天才。
一応補足しておくと,こんな流れになるのかな。
・合コン回。ハーサカ「ありのままの自分が愛されることなんて絶対無い」と会長に告げる→流れで二人でカラオケへ(第83話)
・カラオケ入室直後。ハーサカが自分の正体の一部を明かす(第98話冒頭)
・自分弱みを見せるために会長,ハーサカにラップを披露(第97話中盤回想・第84話)
・その結果,ハーサカ耳の中になまこの内臓を入れられる感覚を味わう(第84話)
・会長「そんなことない」とハーサカに告げるために,藤原書記にラップの練習について相談・特訓の流れ(第97話)
・柏木渚が生徒会室で恋愛相談しているその外で,藤原・会長が特訓(第87話)
・お泊まり会。藤原,会長がハーサカ(男)を好きと誤認(第96話)
・特訓終了,ハーサカを誘う。藤原会長は本当にハーサカ(男)が好きと誤認(第98話)
・ハーサカ,会長と藤原に呼び出される(第97話冒頭・第98話中盤)
とまあ,時系列を整理しておいたところで今回の感想です。
藤原母による再教育により,ラップの技術を一定レベルに到達させた白銀御行会長。となれば思いを伝えるタイミング即断即決。早速,ハーサカ(女)にアポイントメントを取ることになったわけですが...。

グルーヴ
あ,はい。
いろいろと各人の持つ情報とその思惑とがグルーヴしておられる。
白銀:ハーサカ(女)さんに「演じなければ愛されないなんてことはない」という「思い」を伝えたい。
藤原:会長はハーサカ(男)に恋する「想い」をラップで伝えたい。
早坂:よく分からないけれど会長にデート?に誘われたけれども,藤原がいるようなのでハーサカ(男)モードで行こう。
かぐや:ハーサカに大事な話って何? 浮気ですか?(注:会長がハーサカと会おうと浮気ではない)
完全にこんがらがっておられる。
面白いのは,藤原書記とかぐや様だけが「色恋沙汰(?)」というニュアンスで捉えたところですね。早坂さんの七変化のせいで「ハーサカ=男」と認識している藤原書記はホ○(コンプラ)的な意味で捉え,かぐや様は会長は自分が好きなはずと信じているくせに「ハーサカ=女」を誘ったことにピキっときている。
まったく別の視点なのに会長の「思い」を「想い」的に捉えたところが笑えます。

意地悪
そんな早坂がどんな認識で会長に誘われたと思っているかはわかりませんが,色恋沙汰とは思っていないでしょう。会長がかぐや様一筋であることは承知していますからね。その上で「会長とデート」と言っているのは,いつも無理難題を投げかけてくる主に対する「意地悪」なんでしょうが。
次。ハーサカ男女兼任問題。
前回感想でも指摘していたんですが,これどーすんのかなと思ったらなかなか上手い処理をしたもんだなと正直感心することしきりである。

本当の自分...の一部
なるへそ...。
事前に白銀会長には「本当の自分」として,四宮家から与えられた職務をばらしていたのね。なので「何でそんな格好」という当然至極の疑問を「藤原さんの前では男装でなければならない」という真実をもって処理するという算段。こういうの,本当に上手いですね,赤坂先生。
結果,会長はハーサカ=女,藤原書記はハーサカ=男(かつ,会長はハーサカ(男)が好きと誤認したまま)でお話を進めることができたという。なるほどねえ。
...とはいえ,いくつか気になることはある。
会長認識では「ハーサカが本当の自分をさらけ出したから,自分も弱みを含めた本当の自分をさらけ出す」という流れで例のカラオケルームにおけるナマコの内臓ラップを演じることになったわけですけれど。
ハーサカは本当の意味で全てを語っていないですよね? いろんな意味で。
本当に「本当の自分」をさらけ出しているのであれば,ハーサカは職務について語るだけではなく,自分の本当の名前と所属...秀知院学園の同級生である早坂愛であることを会長に告げなければ「すべてをさらけ出した」とはいえないんじゃないかしら。
まあそのあたりのことは会長もおぼろげながらなのか,たまたまなのかわかりませんが,「ハーサカが本当の自分をさらけ出しきっていない」という感覚を抱いていたんじゃないかなと今回の会長ラップ(リズムと音程が合っているバージョン)から僕は感じ取りましたけれど。

仲良くなりたい
一方で,「普通に仲良くなれませんか?」という台詞からは本当の早坂愛の気持ちに通じるものも感じなくも無い。無いんだけれども,カラオケルームにおける発言においては「この仕事を上手くやり遂げるための演技」が入っていたように思います。
今回の結末を鑑みればあながち「本音」も含まれていたのかな,とか思わなくもないですけれど,台詞は演技・内容は無意識に本音が出た的なニュアンスですかね。そんな風に感じたり。
というわけで,前回冒頭のシーンに至る。
怯えるハーサカはいたし方が無いとして,藤原書記と四宮さんの反応が面白いですね。

かぐや様はお可愛い
前回予想したとおり,本当の自分をさらけ出すならば相手は会長だけではなく「四宮かぐや」に対してもだろうと思っていたので,四宮さんがついてくるのは予想通り。
そして案の定の嫉妬がお可愛いのである。今回はハーサカ(早坂愛)回だったわけですが,何気に四宮さんがとてもお可愛い回でもあった。歌=和歌を送って恋心を伝えるとか,平安時代の恋愛事情なんかを引いてきて,元ネタとなった竹取物語を想起させるとかなかなかに上手い構成。
......そして気になったのは藤原書記の反応である。ハーサカ=男と誤認したまま話が進むのは当然なのですが,ここで漢字が「思い」になっているんだよなあ...。

ハーサカ君への「思い」
もし恋愛的な意味で捉えているならばこれまでの書き分けから当然この台詞では「想い」になるはずなんだけれど。ただ実際に会長がハーサカに伝えたいのは「思い」なんで合っているといえばあっているのですが。単行本で修正が入るのか,気になります。
...
......
そんな背景知識をもって披露されるMC御行のラップシーンを眺めると,なかなかに奥深いね。
正直なところラップはトンとわかりません。わかりませんが,歌にのせている気持ちは読み取れます。
「演じなければ愛されない」というハーサカの言葉に対して本当にそうなのか?という白銀御行の問いかけ。なまじ演じてばかりいる白銀会長だからこそ含蓄深いじゃないですか。重みがあるじゃないですか。

自分を知る男・白銀御行
最初に自分で言っているように,白銀御行は「ポンコツオンチの修理品」レベルの歌い手である。そんなことは当の本人がきちんと認識している。ソーラン節もそうですし,校歌もバレーボールもそうでしたけれど,基本的に白銀会長は「できないことだらけ」である。努力しなければ出来ないことを本人が百も承知している。
日頃の精一杯の虚勢は「そうでありたい」という当の本人の願いである。理想である。そのためには何事にも代えて努力して「なりたかった自分」になってみせる。そんな努力と根性の人なのである。
どうしてそうまでして「上」を目指すのか。
それは自分のそうありたいという姿,四宮かぐやに釣り合うような男になりたい,ありつづけたいという気持ちから生じているのである。その気持ちは「本気」である。

本気と書いて"マジ"なやつ
本気だからこそ,ファッションじゃない。遊びや見せかけの演技(着替え)で済ますことができない。演じる必要なんかない。あるがままの自分,地を這い泥を啜ってでも成し遂げてやろうというその気持ちは本物である。作り物ではない,本物(ノンフィクション)である。
できない自分をハーサカの前で晒し,できるようになりたいと努力してできるようになった姿をハーサカに晒す。どちらも演じていない,本物の白銀御行である。会長はそんな姿を通じてハーサカに「演じていなければ人は愛されない」などということを否定したかったのである。
日頃演じている優秀で天才な自分の姿は演技じゃない。できないならできるようになればいい。できるようになったら,それは本物の自分の姿となる。
白銀御行は天才ではなく,天才肌の努力人である。そんな本気を通じてそうありたい「天才」の自分に近づくのは,ほかならぬ孤高の天才であり比類無き佳人である四宮かぐやと対等につきあえる男となるためである。こんなに説得力のある姿はないじゃないですか。そんな白銀御行を四宮かぐやは愛しているんだから。

届け,御行の思い
そんな会長のラップに乗せられた言葉の意味をハーサカが受け止められたのかどうかは...実はあいまいだったように思うのですけれど,そんな会長の出来なかったラップができるようになった姿を通じて「それがどれほど凄いことか」理解したのは間違いありません。藤原母とともに感動しているシーンが涙を誘います。
そのレベルに達すること自体が信じられないほど,ポンコツラッパーだった会長が成し遂げた奇跡。そんな本物の所業をみたからこそ,単なるうわべだけの演技ではない,本当の姿の重みが伝わったでしょうし,そこまでやる理由が四宮かぐやと釣り合う自分になるためという背景があることは,聡い早坂愛には分かったかもしれませんね。
しかしまあ,ここで重要なのは早坂愛にとって「演じないでも愛されたい相手は誰なのか」ということですよ。
今回のシャウト的には,日ごろ仕事として演じ続けている自分に嫌気がさしていること,本当は自分も甘酸っぱい青春を堪能したいということが彼女のストレスというか,気持ちの整理がつかなかった部分だったわけですけれど。それは誰にわかってもらいたかったのかな?
男友達としての白銀御行とのつながりももちろん彼女の欲求を満たす一つの要素にはなるでしょうけれど,それは「演じないことで愛されたい相手」ではないですよね。
...と考えると,やはりそれは主である「四宮かぐや」の方がより近いんだろうなあ,と思わなくもないのですが...。

天才=四宮かぐや
訳もわからないまま嫉妬に駆られてこの場に現れた四宮かぐや。そんな彼女がやはり「天才」であるということは,ちょっと聞きかじっただけのラップをあっというまにマスターしているあたり分かりますね。
藤原母が白銀会長からラップの理論を学び,白銀会長が藤原母からラップの実践を学ぶ。それを達成するには「リズム」と「音程」という二大魔王を倒さなければならなかったわけですし,それこそ藤原書記は卒倒しそうなレベルの教授を行ったのでしょう。
努力すればいつかはマスターできる「天才肌」の会長が,そうした血の汗流し血の涙を流しながら努力して到達した境地に一瞬で追いつく。白銀会長が何かの強迫観念に取りつかれたように努力を続けるのは,そうしなければ四宮かぐやという本物の天才に敵わないからなわけです。
そう考えてみると,二人の恋の決着はやはり最後は白銀御行から四宮かぐやに首を垂れる形になるしかないような気がしますけれど。逆に,そうした圧倒的な力関係の差があるからこそ,かぐや様から告白させたい気もしなくもないですが。
話がそれました。
そんなかぐや様がラップのやり取りを通じて,あっさり早坂愛の問題の所在を指摘するところもまた「天才の所業」なのかなと思ったり。実に鮮やかに早坂愛の本質をラップにしておられる。

言いたい放題
「無理無理♪
人にはある向き不向き♪
この子はいつだって心に予防線♪
自分の本音表に出さない篭城戦♪
キャラ作り演じる彼女の処世術♪
ニセの自分をスケープゴートだもの安全圏♪
傷つきたくないただの臆病者!
駄々こね続ける少女のYO!
泣き虫!足踏み!それがやり口!」
なんのかんので四宮かぐやは彼女の本質をきちんととらえている。処世術のためにキャラを演じ,傷つかないために本当の自分を出さない。どんなに大人ぶっても,どんなに優秀な使用人を演じても,底にあるものは傷つきやすい臆病な女の子である。
そんなことをしっかりと見抜いて理解してるわけです。
それは四宮かぐやが彼女の仮面を見抜くのは容易いというレベルの天才だからかもしれないし,単純に日頃本音を垣間見せるような距離で早坂愛と過ごしているからということもあるのかもしれない。ここ微妙なんだよなあ。

演じて隠していた部分と言えるのか
割と本音を見せ合っているような二人に見えるだけに,案外早坂愛はかぐや様の前では「演じている部分が少ない」と思うんだよね。であれば,やはり早坂愛が愛されたい相手ってのは別にいるんだろうし,そのことを四宮かぐやが認識していると考えたほうが良いのかもしれないなあ。
もちろん,今回早坂がシャウトしたように,本当になりたい自分というのは本音の本音でしょうし,そうしたことが実現できるように主の四宮さんと友達になりたかった白銀会長につげたという側面はその通りなんでしょうけれど。
ただまあ,それを演じていなければ四宮さんに使用人として友人として愛してもらえないという風にとらえてはいないようにここまで感じるので,やはりその台詞の部分については別の誰かについて述べているのでしょうな。多分に「お母さん」だと思いますが。
そういう意味では本音の自分,なりたい自分を四宮さんに言い返せた今回の所業は,来る本丸であろう「母親」に対する練習課題的な意味があったのかな,と思ったり。

本当の自分をさらけ出す
「かぐや様がうらやましい」
「私もしたい青春っぽいこと!」
「私もほしい!男友達!」
かつて従業員用の風呂場で漏らした本音が主の前でついに炸裂する。

本音(第54話より)
演じることなく,本当になりたい自分をさらけ出したこと。そんな「本当の早坂愛」を引き出したのは,白銀御行と四宮かぐやの共同作業ということになりましょうか。
そんな「天才たち」の姿がまぶしかった,『かぐや様は告らせたい』第98話でした。まる。
...
......
さて。
以下,拾いきれなかった小ネタになります。
まずはMC御行のラップに対するこの反応。

藤原の思い,早坂の思い
ナマコの内臓を耳に入れられたような感覚を味わったハーサカこと早坂愛さんが涙流して感動するのは当然として,この藤原書記の反応である。
コンプラで吹く。〇モや商業誌ではダメなんだろうなあ...LGBTをはじめ多様性が認知される世界ですし。それに対する四宮さんの当然の突っ込み(ハーサカ=女なので,文脈的に意味不明)なのも構図的に面白いです。
次。
四宮さんにかまわずハーサカへの「思い」を告げようとする会長に対してこの四宮さんの乱入が笑えます。

ほぼ言いがかり
「不埒なだまし」「稲妻の天罰」......いや,別に白銀会長は何もだましていないし,かぐや様に天罰を食らうようなことは何もしていない。会長が女友達と会おうとラップで思いを伝えようと,それは何の問題もないのである。浮気でも何でもないんですが,当然のように責める四宮さんがお可愛い。
二人の間でお互いが好きあっていることは暗黙の了解ですし,得てして女性はこんな反応を取りがちなものではありますけれど。付き合ったら付き合ったで四宮さんの言動に振り回されそうな白銀会長の未来が気になります。
あ,ついでに言えばこのシーンでハーサカのことを「早坂」って思いっきり呼んでしまっていますけれど,これは会長と藤原書記にはきちんと伝わったのかな?
次段で取り上げた内容を鑑みれば,藤原さんには伝わっていないですね。一方で会長には伝わった可能性がちょっとある。あるがままの自分をさらけ出さなければ,本当の男友達にはならないような気もしますし。このあたりの答え合わせも気になります。
さらに次。
四宮さんの乱入と本質を突いた物言いにブチ切れて,思わず本当の自分の気持ちをシャウトした早坂さんと会長のこのシーンである。


友情...なんだけれど。
ハーサカの友人であることを当然のように受け入れている白銀御行とそれに感動するハーサカこと早坂愛。そんな姿をみて「男の友情」と述べる藤原千花がすごいのかポンコツなのかよくわからない。何とも言えない笑いがこみ上げてきます。
ハーサカのことはあくまで「男」として認識しているんだけれど,二人の間にあるのは恋じゃなくて「友情」なんだということは理解したってことですよね。うーん,まあ,きちんと会長の気持ちは伝わった...ということでいいのかな?
それだけみゆきち君が凄かったということなんでありましょう。
というわけで,気になる最後1ページである。

Here comes new challenger!?
学年が上がるころにはサポート役がもう一人増えるとな...?
女子ですよね。これは女子ですよね。当然,高校女子ですよね。これはこれ,波乱要素として気になります。あるいは,分家筋の四条家より,いよいよ四条帝が来るということかもしれませんけれど。個人的にはサポート役は女子がいいですけれどね(フンスフンス)。

からかい上手の早坂さん
というわけで,最後の「からかい上手の早坂さん」がお可愛かったのでした。再度まる。
かぐや様は告らせたい 9 ~天才たちの恋愛頭脳戦~ (ヤングジャンプコミックス)
画像は週刊ヤングジャンプ2018年第24号「かぐや様は告らせたい」第98話 ,第54話より引用しました。