
さてと。1年ぶりに『恋と嘘』の感想です。
(最新話 第119話 2017/02/05更新分の感想はこちら)
第4巻以降,「政府通知制度」と「恋」を通じて"なにをもって「恋」とするのか",つまり「運命の恋」とは何ということが語られてきたわけですけれど,この第116-117話でネジと莉々奈は一つの結論に達しました。

二人の結論
(関連感想)
・『恋と嘘』第1話~19話 感想
・『恋と嘘』第20話~23話+第1巻4.5話 感想
・『恋と嘘』第24話 感想
・『恋と嘘』第25話 感想
・『恋と嘘』第26話 感想
・『恋と嘘』第27話 感想
・『恋と嘘』第28話 感想
・『恋と嘘』第29話~38話(キャンプ編)感想
・『恋と嘘』第39話感想
・『恋と嘘』 第2巻書き下ろし & 第40~45話 感想
・『恋と嘘』 第46話~第57話 厚労省特別講習編 感想
・『恋と嘘』第3巻 + 第63~71話 恋の葛藤編 感想 感想
・『恋と嘘』第118話 感想 感想
・『恋と嘘』第119話 感想 Update 2017/02/05
根島由佳吏は高崎さんが好き。真田莉々奈も高崎さんが好き。二つの「好き」の意味は異なるけれど,お互いにたどり着いた結論は「高崎さんの笑顔を守りたい」でした。
うーむ。
ついにここまできたか。
ラブコメにおいて三角関係(ネジに関しては四角関係ですけれど)の頂点は3つ,結ばれる点は2つ。残り一つはあぶれるしかない。そんな宿業を背負わざるを得ないのがラブコメです。僕はこの瞬間を見るのが楽しみでもあり,ずっと見たくなくもあるのですけれど...こうやって莉々奈とネジがお互いのことはひとまずおいて高崎さんとネジが結ばれることを願う。まあ感無量としか言いようがありません。
以前,ネジと高崎さんがこんなこと言っていました。

好きって何
高崎さんの「好き」とネジの「好き」。これはほぼ同一のもので,この恋物語の根源をなす原初体験からの想いそのものです。小学校1年生の時にとなりの席にいた二人。消しゴムを忘れた高崎さんに,一生懸命声をかけようとして一日が終わる頃に消しゴムを貸すことができたそんなネジの優しさ。その時見せた高崎美咲の笑顔。
そんな二人の原初体験,すなわち「初恋」に起因する「好き」です。

初恋
一方,莉々奈の高崎さんに対する「好き」は,ネジと高崎さんと(ついでに仁坂も)の半年あまりの結びつきから得られた自身の変化,成長に対する感謝であり,共に過ごした時間から得られた楽しさ・喜びを共有した相手としての「好き」です。

莉々奈の想い
二つの「好き」は違う。でもそれが指し示す方向は同じ。高崎美咲を悲しませたくない。いつもあの笑顔でいてほしい。二人が高崎さんを「選んだ」という結論は同じ。なるほど...
...
......
こうしてみると三角形の二点の間ではほぼ共通理解が得られたわけですが,実際にはそんな単純ではないと思うのですよね。
莉々奈からの申し出に,一度は躊躇したネジ。

莉々奈とネジ
そりゃそうです。ネジと莉々奈の中にある「政府通知」を通じた「絆」は,恐らくもうほとんど「恋」に近い。政府通知はそれまでの世界を変える。二人を構成する要素から導かれる最高の相性は,その演算がたしかにそのとおりであったかのようにネジと莉々奈の距離をどんどん近づけていきました。
莉々奈がネジと高崎さん(と仁坂)とのつながりで高崎美咲に感じたものが本物の友情だとしたら,莉々奈とネジがこの半年間の間に共に過ごした時間と経験は間違いなく「恋」の入り口に差し掛かっている。他の人にとられたくないという思い。そばにいるだけでドキドキしたり嬉しくなってしまう気持ち。これもまた「恋」に相違あるまい。

政府通知が導く「恋」
今回,ふたりは高崎美咲について考えた上で自分たちの関係を切り離すことを選んだわけですけれど,はたしてこの後行うという「練習」は,単に二人の間で成就したかもしれない気持ちと別れを告げるための「思い出」で済むのか。
あるいは,莉々奈がネジを,ネジが莉々奈に感じるであろう「好き」という気持ちを再確認してしまうことになるのか。このあたり,この「練習」の結果を見るまではまだなんともいえません。

ねえ...練習って何
そしてなにより,今回二人が出した結論は一番肝心なものを無視して選ばれている。高崎美咲の気持ちである。
高崎美咲がネジのことを「好き」なのは話の節々に出てきていますけれど,と同時に高崎美咲は最初から自分の恋が成就することについては諦めているように見える。時折,「好き」というどうしようもない感情が浮上することがあっても,高崎さんはいつもその感情を押さえ込んできた。
抑える理由は他でもありません。自分は政府通知の相手として「選ばれていない」から。

選ばれなかった美咲
高崎美咲は選ばれていない。これは確固たる証拠はないのですけれど,この事実が確定した時に,高崎美咲は既に「政府通知制度」を利用することを辞退しているのではないかしら。
「政府通知制度」は本人が利用することを申請して初めて成立するものです。小学生の頃に申請しているようですけれど,逆に言えば政府通知が来る前であれば申請を辞退することができるとも読める。
あの日,ネジの誕生日に政府通知が来た日,一瞬高崎美咲と表示されかかって真田莉々奈がメールに映し出され,政府通知を届ける厚労省の二人がやってきたあの日,高崎美咲は「選ばれなかったこと」を受け入れたんじゃないかしら。

大切にしたい気持ち
高崎さんはほとんどあり得ない可能性の奇跡として,ネジに政府通知が来る日まで自分が結ばれる可能性にかけていた。おそらく14歳のころのたわいも無い会話の中で,政府通知制度について語ったあの日のころからそう決めていたんじゃないかしら。もし自分がネジの政府通知の相手になれなかったら,自分は政府通知制度をつかって(あるいは使わなくても)もう結婚はしないと決めていたんじゃないかしら。
それならば,五十嵐さんとの会話やLINEのメッセージの意味が分かる。


高崎さんが「既に」選んでいること
高崎さんは自身の初恋を,あの小学生の時に気づいたその気持ちを大切にしていたい。他の誰かを受け入れるのではなく,自分の想いをずっと残していきたい。ただしそれをネジや莉々奈に押し付けたりしない。だからネジと莉々奈が,選ばれた二人が幸せになることを願っている。そんな風に読めるのです。
それは多分,ネジのことを「好き」である仁坂にも言えることです。仁坂もまた,ネジという友人に対してそれ以上の感情を抱いていることは示唆されているわけですが,彼もまた「政府通知は来ない」と以前述べていました。そして兄が政府通知手結婚してくれたことで,(政府通知で運命の結婚をした)両親を喜ばせることができたということも。

仁坂の政府通知
...たぶん,仁坂もまた政府通知制度の利用を辞退しているのでしょうね。仁坂と高崎さんの奇妙な距離感,それは恋敵でもあり共に自分の想いを秘めていくことを選んだ二人に共通する価値観がなせるものなのでしょう。

二人に共通する価値観
きっとこれこそが,恋と嘘の「嘘」の核心部分に相違あるまい。
自分の恋を隠す為に。自分の本当の気持ちをかなえることができない時,政府通知を拒絶して自分の中でその恋心を閉じる。それこそが「嘘」なんじゃないかと思うのです。
...
......
そんな覚悟のもとに自分の「好き」という気持ちを押さえ込んでいる二人に対し,今回,ネジと莉々奈が選んだ選択を提示したところで高崎さんは素直に受け止めるかというと些か疑問が残ります。
物語の構造上,政府通知による最高の相性よりも本当の自分の気持ち,「恋」を選ぶという文脈でしょうから,最終的な結論はネジと高崎さんの物語になるだとは思います。
繰り返し出てきた「運命の恋」という言葉。政府通知が示す最高の相性とも違う,ずっと大切にしていきたいその人を想う気持ち。高崎美咲が守りたいもの。根島由佳吏が選びたいもの。「嘘」の中で隠されるはずだったものが最後に表に出てくるのがこの物語の結末なんだろうとは思います。
,,,しかし今回,先に「高崎さんを選ぶべき」ということを当事者の二人が選択することが描かれました。そしてこれから二人の間で起きること,さらには高崎さんと仁坂の反応...そんなことを考えると,必ずしも一本道で物語が進まないような気がしなくもないのです。
願わくは最良の結論に至れることを,と一読者として思います。まる。
恋と嘘(4) (マンガボックスコミックス) Kindle版
恋と嘘(5) (マンガボックスコミックス) Kindle版
*画像は『恋と嘘』第1巻,第2巻,第4巻,第5巻 及び 『恋と嘘』第116話・第117話 から引用しました。